これまでウィシュマ・サンダマリさんの死について、入管で起きていたこと、そして2022年の国会審議を批判的に吟味してきた。「ウィシュマ・サンダマリの死(1)――何が起こっていたか」「ウィシュマ・サンダマリの死(2)――2022年の国会審議を振り返る」
指摘したポイントは二つある。一つは、入管がウィシュマさんのことを警察から引き受けたときから、DVという観点での視点が欠如し、それに沿った対応ができていなかったことである。二つ目は、ウィシュマさんの問題がDVという観点から十分に追及・検討・反省されていないのではないか、という点である。
さらに問うべき問題がある。入管が規範とするDVに関するルールそのものが、正しかったのだろうか、というものである。
参考になるのは、アメリカ法である。アメリカ法では、1994年にVAWA法(Violence against Women Act)が制定されている。これをもとに、移民法では、送還からの救済と在留資格の付与が規定されている。ただしこれは、米国の市民権(いわゆる国籍)を有する男性のパートナーに限定されている。
その他に、アメリカはいくつかの仕方でビザを提供している。DV被害者には、Uビザというのがあり、人身売買の場合にはTビザというのがある。ウィシュマさんの場合、これらに該当しそうにはない。そもそも、滞在資格を失う前の申請が必要である。
けれども、犯罪被害者の救済のビザ、すなわちUビザがある。これは、ウィシュマさんのようなケースで、申請が可能である。もっとも、要件は厳しい。
アメリカの場合、入管に限らず、DV被害者や犯罪被害者、人身売買被害者を救済するという傾向がみられる。あるアメリカ人がいた。彼は、ビザの招へいで身元引受になったことにより、逮捕された。親しいアメリカ在住のある国の女性に協力したそうである。書類に問題があったのか、虚偽の申請をしたのかは分からない。しかし、そのことで、人身売買に関与したとして逮捕され、有罪になって刑務所に入っている。
日本の社会には、外国人被害者救済の発想が薄い気がする。そのことも入管法を不十分なものにしているように思われる。たしかに、ブローカーに対して入管が厳しく対応をしているのは知っている。また、人身売買の対象者にも在留特別許可が与えられることもある。しかし、犯罪被害者一般にまで広げられてはいないようである。
ところで、日本では、どのような議論がなされているのか検索してみると、山岸素子氏が、ウィシュマさんのケースでの在留資格を主張しているのが見つかった。彼女は移住連の事務局長、カラカサン共同代表、日本カトリック難民移住移動者委員会委員という役職にある。記事には彼女のインタビューをもとに書かれているようである(入管収容女性の死 被害防止の願い届いて<女性たちのカラカサン・下>)。DV被害とアメリカ法、そしてウィシュマさんのケースを論じるものも見られるが、はっきりと在留資格を再考する記事が見当たらないなか、興味深く読んだ。
ここで、興味深いのは、DV防止法の立案過程での貢献ということもそうなのだが、率直にビザの必要性を主張している点である。彼女は新聞記事のインタビューで次のように述べている。「要領では弱い。入管難民法の中にDV被害者に対する規定を明文化する必要がある。DV被害者をもって在留資格の申請ができるようにすべきだ」。端的な意見で、もっともである。
しかしながら、インタビューということもあり、詳細は述べられていない(具体的にどのように制度を整備すべきか、意見を伺ってみたい)。
私は、ウィシュマさんのようなケースでは、在留特別許可を出すべきだと思う。これは退去強制の手続きで出されるビザに関する現行の仕組みである。この在留特別許可には、ガイドラインが存在しており、積極要素と消極要素が書かれている。これを総合的に考慮して、在留資格を出すというのが実務上の処理である。この積極的要件に、DV被害、あるいはそれを含む犯罪被害を加えるべきである。
ウィシュマさんのケースでは、加害男性に対する警察の捜査等はなされていない。こうした状況で、被害者が帰国することは、犯罪の取り締まりという点でも不十分である。少なくとも、在留資格を出し、事件の解決を行うべきである。もちろん、事情があれば、他の在留資格への移行も考えるべきであろう。
一人の外国人女性が亡くなった。とならば、第二、第三の犠牲者が出ないように制度を変えていくのが当然である。外国人が加害者となるケースだけが日本ではさかんに取り上げられる。法務省-入管庁にもその傾向がみられる。よく知られているように日本の入管法はアメリカ法の影響が強い。そうであるのなら、アメリカ法の発展を輸入してもよいのではないか。どうも怠惰な気がする。発想の転換が必要で、現実的に可能な方法で改善が考えられるのだから、その方向で検討してほしいものである。