2022年11月28日月曜日

ウィシュマ・サンダマリの死(2)――2022年の国会審議を振り返る

はじめに

 

 2011年3月、ウィシュマ・サンダマリさんは入管で亡くなった。 ウィシュマさんの事件については、既に論じた。「ウィシュマ・サンダマリの死(1)――何が起きていたのか」。(といっても、整理のために書いたという感じで無駄に長いので、ウィシュマさんに関する記事や本を読んだ方がいいと思います)。

 2011年、国会と行政はこの事件に対応した。2011年、通常国会で、入管法改正の審議をおこなう法務委員会でこの件は追及された。

 一方で、入管庁は、調査チームを設置し、報告書を作成させている。そして、次のような経過をたどった。


2021年10月28日、出入国在留管理署の収容施設における医療体制の強化に関する有識者会議の第1回会合が開かれる。

2022年1月14日、出入国在留管理庁職員の使命と心得 公表

2022年2月28日 有識者会議が「入管収容施設における医療体制の強化に関する提言」公表

2022年4月 改善策の取組状況 発表

 

 このように、2022年の前半に、入管庁は一定の措置をはかっている。改善策の取組状況によれば、おおむねその作業は完了したようである。特に(根治治療の実現は無視して)医療の問題として、改善をはかろうとしたようである。

 しかし、これで事件が終わったとは言えない。

 行政の取り組みと並行する形で、裁判が本格化している。2022年6月には国家賠償請求事件が審理され始めた。ただし、刑事事件としては、検察は不起訴とし、検察審査会も不起訴相当としている。

 一方、国会でも審議されている。残念ながら、こちらについてはほとんど報道がなされていない。しかし、国民の代表が仮にも議論をすすめているのであるから、注目されてもよいのではないだろうか。訴訟は、入管の医療の過失が問われるだろうが、国会の議論はより広い観点から行われている可能性もある。なにか新しいことも見えてくるかもしれない。


1. 国会の審議


 2022年の通常国会では、法務省の法改正案件はそれほど大きなものではないようである。民事訴訟法や刑法など、基礎的な法律の一部改正が提出されてた。

 およそ、8開催日で、ウィシュマさんについての質問がなされていた。国会でのウィシュマさん関連の審議については、予算が論じられていたであろう、3月に集中している。

 3月1日、3月2日、3月8日、3月9日、3月29日、4月22日、5月20日、6月10日で、集中的な議論が見られた。

 質疑を確認すると(完全におこなったとはいえないが)、最終報告書の誤り、医療に関する問題、が取り上げられてきたようである。こうした議論は、明らかに2021年からの延長線上にある。

 ただし、新たに重要な発見があったり、新たな回答を引きだしたとは言えない。ニュースとして報じられることがなかったのも、そのような理由からかもしれない。 

 秋の臨時国会でも追及は続くが、ここではあまり取り上げられてはいないようである。

 たとえば、10月26日には、山田議員が、11月16日には、米山議員、本村議員が質問に立っている。

 秋の臨時国会では、ウィシュマさんへの言及が減ったように思われる。そもそも、通常国会よりは期間が短いので、質問の機会も減ったのだろうと思われる。おそらく、葉梨大臣の死刑をめぐる発言の問題の追及に時間が割かれたということもあるかもしれない。

 そして、一年以上たった、ということもあるのだろう。入管に関する質疑もウィシュマさんに拘るものであるよりは、より広い視野でなされている印象がある。11月22には、11月18日のイタリア人死亡についての質疑も行われている。

 ウィシュマさんに関する議論は、秋になって、収斂・終息していったと言えるだろう。


2. DVについて

 

 2022年を振り返るとき、気になるのは、DVについての指摘がほとんどないように思われる点である。確実に調べることはできていないが、国会では十分に追及されていない。

 おそらく唯一の言及は、自民党議員・井出庸生議員によるものである。これは、3月1日の審議である。

https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=120805206X00220220301&spkNum=10&current=12

 報告書の90頁で、DV情報について知った職員はそもそも措置要領を知らなかったと書かれているが、それについてどう入管が改善したのか、井出議員は答弁を求めている。政府の答弁はこうである。

「調査報告書では、全国の地方官署に対し、措置要領の存在及び内容等を改めて周知徹底することが示されておりまして、これを踏まえまして、調査報告書が公表された令和三年八月以降、入管庁長官から指示等を行い、改善策として示されたDV措置要領の周知徹底を既に実施しているところでございます」

 しかし、この答弁に対して強い批判をしているとは言い難い。井出は、規則が公開された意義を指摘するが、同時に、身内だけの共有に疑問を投げかけるにとどまっている。

 ここで2021年に目を向けてみよう。2021年5月、はやくも藤野保史が、DVに関連して質問をしている。

 


 藤野議員のこの質問は重要である。措置要領について詳細に言及しながら、政府をただしている。少なくとも、仮放免を出すべきだったと主張している。

 2021年の終わりには、市民団体はDVという観点から入管庁の調査についての限界について指摘し、法令の改正の提言も行っている。


 

 会見に合わせて、声明文「外国人DV被害者に対する適切な保護の徹底と対策の改善を求めます」が発表されている。

 これを受けて、11月12日、閣議後の会見で望月記者が古川大臣に質問をしているが、(元)大臣はほとんどまともに回答していない。

 このような議論はどうやら2022年の国会審議には生かされなかったようである。理由はあくまでも推測だが、男性中心の議会構成だからだと思う。

 (こう考えるのは、ウィシュマさんのDVというワードにひっかからなかったという自分の過ちがあって、そこからの推論であるかもしれない。あるいはそうではないかもしれない。あくまでも性自認の二分論で考えれば半数、そして非正規移民の中では少数といういわば例外にしか当てはまらない問題だと考えるような直感もあった。)

 ともかく、2021年だけでなく、2022年においても、重要なポイントが見落とされ続けているのである。


まとめ


 最初に示したように、入管は、ウィシュマさんの死後、報告書をもとに一定の改善を果たしたと宣言している。入管としてはこれで幕引き、議論の終わりといったところだろう。国会の審議を確認する限り、医師の配置などで若干の改善があったかもしれない、といった程度のものである。

 軌道修正のプロセスは、その場しのぎの反省では変化しない。医療という観点だけではなく、DVという観点から入管行政を根本的に問い直し、制度の是正をしてほしい。ウィシュマさんと同様のケースが起きたらどうなるであろうか。また同じことを繰り返すのではないだろうか。そうした懸念を持たざるをえない。

 

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